思い出

台風15号の上陸で目下大荒れの天候だが、ビルの中に居ると風雨の音もかすかな騒音に聞こえる程度である。雨の日はビニール袋に入った朝刊を郵便ポストから取り出して、新聞配達の人は大変だなあとしみじみと感じてしまう。もう40年近く前になるが、実はわたしも大学時代に住み込みで新聞配達をしていたことがある。

  当時、地方から上京して首都圏の新聞販売所で働きながら学生時代を過ごす若者は多かった。貧乏ながらも何とか進学を目指したいと志を抱いて新聞奨学生制度を活用して学校へ行きながら住み込みで働いた。慣れない都会での仕事、集団生活、食事など様々な経験を味わったが、風雨の日の配達だけは辛かったことを今でも思い出す。

  雨の日は合羽を着て、グラつく500部の新聞をビニールで被って濡れないように配達するため手間が大変だった。何度か自転車が新聞の重みに倒れて道路にザーッと崩れ落ちて、取替えがようがない濡れた新聞を配達せざるを得ないときもあった。

  大体、雨の日は配達が遅れて大学の一限目の授業に間に合わなかったことを記憶しているが、夜間でも通っていたほうが良かったと思ったことは何度でもある。今、都内で新聞配達のアルバイト学生は存在するのだろうか。たぶん昔のように奨学生制度などないだろうから、大学から家庭の事情によって学費を借りることになっているのだろう。

  現代であればアルバイトの種類も多いので、アルバイトをしながら学費や生活費を自分で賄うことも不可能ではないだろうが、当時は鞄一つで持参金も少なく上京してきたので、その日から住み込みして寝食はとりあえず凌げたので有難い思いであった。