経営と命

以前から企業経営者の自殺が日本には多いと言われています。特に中小企業の経営は、経営者が個人で企業の負債の連帯保証を負うために、経営の失敗は自らの人生を奈落の底に落とし込む可能性もあります。皮肉なもので、中小企業経営においては多額の生命保険を経営者自身に掛けざるを得ないのも、いざという時の負債の返済への備えとされて、大企業にはないような中小企業に課せられた社会的厳しさかもしれません。


しかし、企業経営は経営者のメンタル面が強固でなければ背水の陣から立ち上がり、復活を果たすことは難しいと思います。いくら経営的にリスクが高くても、跳ね除ける勇気と粘り強さが無ければ人間ですから真面目に考えすぎて精神的に負けてしまう事もあります。私も幾度となく修羅場と言えるかどうかわかりませんが、窮地に陥った経営を経験してきました。でも最後に復活のバネになるのは信頼する経営パートナーであり、家族です。


経営においても戦争と同じで、きれいごとでは済まされません。「勝てば官軍、負ければ賊軍」と言われるように勝てば正義ですが、負ければ不義となり、道理どうであれ勝者が正義となります。命が存在していなければ、復活の狼煙も上げられないわけですから、負けないように経営に命を掛けることは当たり前だと考えてよいと思います。どん底で開き直って、気持を切り替えることが大事だということを経験しました。


大げさですが、ある意味命がけで中小企業の経営はなされていると言っても過言ではないでしょう。大企業は会社自体が社会的資産と認められて銀行貸付が行われますので、経営者である代表取締役社長といえども背後では資金的に保証されて、金融機関の経営者に対する個人保証などは皆無です。企業経営において経営者自身に金銭的なリスクが全く無いわけです。ですから中小企業経営者が個人保証を逃れるためには、企業を成長させて社会的な存在にしなければならないわけです。


さて、近年になって20年もの間、日本は世界において競争力と成長力を徐々に失ってきています。どうしてこのような事態に陥ってきたのでしょうか?理由は国内の動きにばかり目を奪われ、多くの日本人が海を渡り、世界に自信を示そうとしなくなったからではないでしょうか。勤勉で有能な日本人として、世界の水準から後退する現実をみて非常に残念な思いがします。


しかし、新興国の台頭で後退してきているのは止むを得ないことなのかもしれません。マラソンでも先頭のランナーは常に余力を残して後続を引き離さなければなりませんが、後続を走っているランナーは先頭ランナーを背後から追跡して終盤で追い抜きをかけてきます。追い抜く力を養うために新興国は先頭ランナーを目標に長年に亘り鍛錬と共に力を育んできました。追う方は強いといわれています。


世の中には多くの企業が誕生して、泡沫(うたかた)のように消え去ったり、川の流れに竿を差すように姿を留めたりして、徐々に社歴というものを刻んでいきます。企業の経営は生き物なので、経営に携わる人は人・物・金を使って、健全な経営を目指し、企業を成長させなければなりません。つまり、企業経営には命が存在すると考えてもいいでしょう。


また、経営は経済を営むと書きます。経済はあらゆる産業の繋がりでできていますし、さまざまな産業界では多くの人々が働き、各々の企業が継続的な雇用を生み出します。そして労働の対価として、そこで働く人たちは糧として賃金を貰います。戴いた賃金のお蔭で人々は生活を営み、そして家庭で大事な命を誕生させ、家族の生活を守ります。


つまり、経営は人生において人間社会の命をも育み続けるわけです。また逆に、人間の命がなければ人存在がなく、企業経営も成り立たないし、経営の維持・発展も望めません。だから経営と命は、相互に重要な繋がりを持つのです。しかし経営は生きものですから、法人とも言います。法人を維持するために健康な体と知恵と栄養の三要素が必要です。


財務を安定させて、働く人の能力も研かれ、仕事の中で果敢に実践されて成果を上げると、働く人に相応の糧が還元されます。人の命も同様だと思います。時々、定期点検しながら命の尊さを大切にする心掛けと心の安寧が必要ではないでしょうか。そのような健全な命が存在してこそ楽しく働けるので、経営も順風満帆に導かれるのです。


今、日本人は時代の過渡期に接して、試行錯誤しているようにも見えます。それは自らが企業経営の中で現場から遠ざかり、主役を演じなくなったからではないでしょうか。新興国の追い上げは当たり前だと思わなければなりません。これから富を得ようと夢を描いている人が周辺国には多いのです。日本人は豊かさに慣れてしまい、満たされた感覚を失っているのかもしれません。


日本人が今の生活水準を維持するためには、果敢に将来へチャレンジしていく命のバイタリティーが必要です。 さもないと企業も市場経済から振り落とされ、経営の維持が困難を極めます。命を大事にして、命の漲(みなぎ)る経営を目指して、私たちは未来の日本の社会に貢献していかなければなりません。太平洋戦争で廃墟となった日本国土を20年で蘇らせ、オリンピックを誘致した諸先輩の功績を私たちは引き継がなければならない義務があります。


経済を営む経営は命あってこそ実現が可能です。皆の力を合わせて、未来のために協働(協力して働くこと)して、新しい日本を切り開く覚悟で、勇気と自信を持って世界の市場にチャレンジしていかなければならないのです。経済は国境もなくボーダレスに人や物が自由に流通して新しい世界を作ります。継続は力なりで、ネバーギブアップの精神が最も必要です。