請負の話

若い頃、建設業界に10年近く身を置いたことがある。大学を卒業して当初は就職を腰掛のつもりで家族を養うためと思ったのだが、教職との二束のわらじも途中でとうとう断念して仕方なく会社に骨を埋めようと踏ん切りを決めたことがある。入社早々、デスクワークも飽きてきたので営業をさせてほしいと希望したら、デスクワークも平行して責任もってやるなら許すと渋々上司から承認された。


それから営業から現場監督、工事代金の回収、債権管理と大体すべての業務を経験させてもらった。もう退職してから30年近く過ぎるが、未だに苦楽を共にした多くの仲間たちが親しくしてくれている。早いもので同期の仲間たちの中にも役員として会社の頂点に立って活躍している者もいるが、私自身は今はまったく対照的なIT企業の経営をしている。


どちらが自分の性に合っているのかわからないが、基本的に同じようなものであると考えている。今は現場監督のようなITの開発現場で体を張るようなこともなくなったが、請負契約というものに建設業界からIT業界まで触れてきて請負とは「請け負け」という極意をさんざん学んできた。


だから人身事故などを起こしたときの責任感は身をもって経験してきているので、事故当事者である元請の現場監督の苦悩というものがよくわかる。首にこそならないが、人身事故でも起こしたら生涯にわたり公的にも私的にも責任を背負うことになる。


仕事を請け負うことはやりがいもあるが、契約上、請け負った会社は最初から弱い立場だと考えて覚悟して取り組む必要がある。当然、自信が無ければ失敗はつき物なので軽はずみに請けないほうが良い。しかし、請負業務をこなせなければ実力は伸びないともいえる。


若いうちにはなるべくリスクを軽くして、小さな失敗にも学んで、請負というものの極意を知ることが必要だと思う。