大事な物

人には大事な物がそれぞれにあるが、わたしにはちょっと変わった大事な物がある。その一つに、中学・高校の教員免許状というのがある。大学を卒業してから就職した最初の赴任先が北海道であったので、北海道教育委員会から発行された免許状である。今どき効力も無いのだが、一応、大学時代に別途教職課程を専攻して単位を取得したので、免許状だけは欲しかったことを覚えている。


残念ながら、当時は中高の教員は余剰があり、全国でも採用人数はとても少なかったと記憶している。理由の一つには、田中角栄首相時代に教員確保法なる法律ができて、教員の待遇改善がなされて応募者が殺到したとも考えられる。一緒に勉強してきた同僚たちも、一旦卒業して再度、小学校教諭の通信教育を行っている大学に再入学して卒業した者が多い。


同僚には、就職難だから大学在学中に教職課程を取っていたほうが得だと自分のほうから勧めていたこともあり、卒業後の小学校教諭通信教育も同僚と協力してレポートの交換をしていたが、残念ながら当時、北海道で働いていたわたしは3年で中退してしまった。理由は会社が休めなくて、関東での教育実習を欠席せざるを得なかったからだが、結果的には人生はそれでよかったと思っている。


現在は同僚も校長をしている者が多いが、昨今のいじめ問題が全国的に広がっている現状をみると、教員の職業の方が民間のサラリーマンの仕事より精神的に大変で気の毒のような気がする。翻って、わたしの大事な物の一つは、丸い筒に入れて箪笥の奥にしまってあるには違いない、かつての志の結晶である教員免許状である。